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東京高等裁判所 昭和63年(行ケ)211号 判決

一 請求の原因一(特許庁における手続の経緯)及び二(審決の理由の要点)の事実は当事者間に争いがない。

二 そこで、原告主張の審決の取消事由の存否について判断する。

本件商標が、別紙第一のとおり、片仮名で「テラピツグ」の五文字を左横書きした構成のものであることは当事者間に争いのないところであるから、この構成にしたがい、本件商標からテラピツグの称呼が生ずることは明らかである(このことは原告も明らかに争つていない。)。

原告は、本件商標のうち「ピツグ」の部分は、「豚」を意味するものと直ちに理解され、その指定商品が「豚用薬剤」である関係から、需要者において豚用の商品を表示するものと理解され、自他識別力がないものとして省略され、本件商標は単に「テラ」と簡略化して称呼されることが少なくないと主張する。

本件商標の構成を表示するものであることについて当事者間に争いのない別紙第一の記載によると、本件商標は、テ・ラ・ピ・ツ・グの五文字の各片仮名が、促音のツをやや小さく表示するほかは、同一の書体、大きさ及び間隔で一連かつ一体に表示されているものであることが認められる。

ところで、「ピツグ」が英語の「pig」に由来し「豚」の語意を有することは我が国において広く知られているところであり、公知の事実である。そして、本件商標の指定商品が「豚用薬剤」であることは当事者間に争いのないところである。

しかしながら、本件商標は、前記のとおり、テ・ラ・ピ・ツ・グの各文字が促音ややや小さく表示するほかは同一の書体、大きさ及び間隔で一連かつ一体に表示されているものでこれを「テラ」と「ピツグ」に分離して認識される構成上の必然性はなく、全体が促音を含めて五音節という短いものであり、「テラ」がいかなる意味の英語の発音を表すものであるかは豚用薬剤の取引者、需要者にも一般に知られていないところであるから(これが知られていると認めるべき証拠はない。)、これに接する取引者、需要者としては、豚用薬剤の分野においても、語頭の「テラ」が意味不明なことに伴つて、全体を「テラピツグ」という特定の語意を有しない造語を表示したものと認識し「テラピツグ」と一連に称呼するのが自然であり、殊更に、その一連のなかから「ピツグ」の部分のみを分離して取り出し、これを「pig」(豚)のことと認識し、したがつてこの部分は「豚用」という指定商品の用途を表示するものと理解し自他識別力のないものとして単に「テラ」と簡略化して称呼することは通常あり得ないことと認めるのが相当である。

この点について、原告は、「ホースエード」、「HORSEAID」の文字から成る商標から「エード」の称呼が、「フイツシユメイト」の文字から成る商標から「メイト」の称呼が、また「DOGLIFE」、「ドツグライフ」の文字から成る商標から「ライフ」の称呼がそれぞれ生ずるとする審決等を援用するが、右「エード」、「メイト」あるいは「ライフ」は、いずれも特定の意味を有する英語の発音であることが容易に理解され得る部分であるのに対し、本件商標のうち「テラ」(「terra」の発音を表示したものと考えられる。)の部分は、特定の意味を有する英語の発音であることが豚用薬剤の取引者、需要者によつて理解され得るとは認められないから、右審決等は本件商標の称呼に関する前記判断を左右するものではない。なお、原告は、「TEHRA-PIG」の文字から成る商標から単に「テラ」の称呼を生ずるとする決定をも援用するが、右商標は本来別個の英単語であるとして「TERRA」と「PIG」の二語をハイフンで結んで構成したものであるから、片仮名五文字を一列に左横書きして構成した本件商標と同一に論ずることはできない。

一方、引用商標の構成は別紙第二のとおりであつて、引用商標から「テラー」の称呼が生じることは、当事者間に争いがない。

そうすると、本件商標の称呼は「テラピツグ」のみであつて、引用商標の称呼である「テラー」に類似するとはいえない。なお、別紙第一のとおりの本件商標が別紙第二のとおりの引用商標と外観において類似しないこと、及び、両者ともに特定の意味を有しない造語と考えられる引用商標と本件商標が観念において類似すると考える余地がないことはいうまでもない。したがつて、本件商標は、称呼、外観及び観念のいずれにおいても引用商標に類似しないものであるから、本件商標の登録が商標法第四条第一項第一一号の規定に違反してされたものに該当しないとした審決の判断は正当であつて、審決に原告主張の違法はない。

三 よつて、審決の違法を理由にその取消しを求める原告の本訴請求は失当としてこれを棄却する。

〔編注1〕本件における特許庁における手続の経緯及び審決の理由の要点は左のとおりである。

一 被告は、別紙第一のとおり片仮名で「テラピツグ」の五文字を左横書きして成り、第一類「豚用薬剤」を指定商品とする登録第一四四一三六七号商標(昭和四一年五月一〇日商標登録出願、昭和五五年一〇月三一日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者であるが、原告は昭和五六年七月二二日、被告を被請求人として本件商標の登録を無効にすることについて審判を請求し、昭和五六年審判第一五三〇二号事件として審理された結果、昭和六三年八月一一日、「本件審判の請求は成り立たない。」との審決があり、その謄本は同年九月五日原告に送達された。

二 審決の理由の要点

1 本件商標の構成、指定商品及びその設定登録日は、前記のとおりである。

2 登録第六四〇三二号商標(以下「引用商標」という。)は、別紙第二のとおりローマ字で「Terrar」と横書きし、その下に片仮名及び平仮名で「テラー」、「てらー」と右横書きした三段の表示から成り、(旧々)第一類「化学品、薬剤及医療補助品」を指定商品として、大正三年三月一八日設定登録、同一三年六月四日回復登録、昭和八年六月二三日、同二八年六月二二日、同四九年八月二六日及び同五九年六月二〇日に商標権存続期間の更新登録がなされているものである。

3 請求人(原告)は、次のとおり主張した。

<1> 本件商標は「テラピツグ」の称呼を生ずるが、その指定商品である「豚用薬剤」の関係においては、「テラ」の簡略称呼をも生ずるものである。

すなわち、「豚」を意味する「ピツグ」は、中学教育において習得される基本的な英語の一つであるし、畜産分野の書籍においても「pig」は「豚」と対照して表示されているから、現在の我が国における英語知識の普及状況からすると、「ピツグ」が良く知られている英語「pig」の発音を片仮名で表したものであることは直ちに理解されるところである。また、「豚用薬剤」は多く市販されているが、それが豚に供されるものであることを示すために、「ピツグ」の語を付加したものがある。このような実状からすると、「テラピツグ」と表示された本件商標は、取引上、看者によつて、「テラ」印の「ピツグ(豚)」用のものと理解されるのが一般的であるといわなければならない。

そうすると、本件商標がその指定商品に使用された場合、取引者あるいは需要者は、本件商標を前記のように理解し、商品の用途を示す「ピツグ」の部分を省略して、単に「テラ」と称呼することも決して少なくないのが自然である。

<2> 引用商標は前記のとおりの構成であるから、「テラー」と称呼されることが明らかである。

<3> そして、本件商標の簡略称呼「テラ」と引用商標の称呼「テラー」とは、語尾において長音(ー)の有無に差異があるが、このような長音の有無によつて「テラ」と「テラー」とが常に明確に区別されるとすることは困難であつて、相互に誤認混同される場合があることを免れないから、本件商標と引用商標は類似の商標である。なお、両商標の指定商品が同一ないし類似のものであることは明らかである。

したがつて、本件商標は商標法第四条第一項第一一号の規定に該当し、その登録は同法第四六条第一項の規定によつて無効とされるべきである。

4 被請求人(被告)は、次のとおり主張した。

本件商標は四音から成る短いものであつて、常に、一体不可分の連続した称呼「テラピツグ」しか生じないから、「テラー」の称呼を生ずる引用商標とは非類似の商標である。

また、本件商標は、その前半部分の「テラ」には特定の意味がなく、後半に「ピツグ」の文字があるから、請求人の主張は失当である。

5 よつて審理するに、本件商標及び引用商標の構成はそれぞれ前記のとおりであつて、互いに差異があるから、外観において類似しないものである。

称呼についてみると、本件商標は、前半の「テラ」と後半の「ピツグ」の各文字が外観上まとまり良く一体的に構成され、特に軽重の差を見出すことができないばかりでなく、これを分断してみるべき特段の事情も認めることができない。そうすると、本件商標は、その構成文字に相応して「テラピツグ」の一連の称呼を生ずるものといわなければならない。他方、引用商標は、ローマ字、片仮名及び平仮名から構成され、その片仮名及び平仮名は「テラー」の同一称呼であつてローマ字部分の読みを特定したとみられるから、「テラー」の称呼を生ずるものである。そこで、本件商標の称呼「テラピツグ」と引用商標の称呼「テラー」とを比較すると、両称呼は、構成音数(四音と二音)はもとより音質においても顕著な差異があるから、それぞれを一連に称呼しても語調ないし語感が相違し、互いに相紛れるおそれがないものである。

観念についてみると、本件商標及び引用商標は、いずれも特定の語義を有しない造語と認められるから、比較する余地のないものである。

そうしてみると、本件商標は、外観、称呼及び観念のいずれにおいても、引用商標に類似していないものといわなければならない。

したがつて、本件商標は、商標法第四条第一項第一一号の規定に違反して登録されたものではないから、同法第四六条第一項の規定によりその登録を無効とすることはできない

〔編注2〕本件における別紙は左のとおりである。

別紙第一

<省略>

別紙第二

<省略>

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